超重戦車マウス




「私は、『Arno Frisch』、ベルリン夜間戦闘防衛隊に所属している。
我が軍の戦況は極めて厳しいが、ゲルマンの鋼鉄の意志をもって困難を克服する。」

「ドイツ軍最終決戦兵器の紹介は、旧日本軍弱小列伝のHPからアイデアを盗作したのにも関わらず、好評を得たので続編を作成してみた。
今回は、ドイツ軍が大戦末期に開発した
超重戦車 MAUSを紹介しよう。」

「このページは、シュミレーションゲームを紹介する場であり、兵器紹介は場違いである。
しかし、マウスは過去にツクダから発売されたシュミレーションゲーム「パンサー」に登場しているほか、PCゲームにも登場することがある。
マウスについての情報は少なく、目にする機会は稀だと思うので、今回は特別にゲーム関連情報として紹介することにしたい。」

架空兵器まがいの戦闘兵器ばかり取り上げないで、少しは銃器などの参考になるものを取り上げて欲しいですね。
このサイトは、一応はサバイバルゲームをメインテーマにしているのです。
くだらない内容ばかりUPしていると、訪問者は減ってしまいますよ。」

「ここでは
我がナチスの科学力はァァァァァァアアア 世界一ィィィイイイイ
であることを広く知らしめる場である。

マウスは架空兵器ではない。
実際に生産されており、ロシアの「Kubinka 戦車博物館」に現存している。」

「マウスは試作車両が、たったの2両だけが製作されたに過ぎません。
現存しているものは、ソビエト軍に鹵獲されたものですが、どうやらマウスは実戦には使用されなかったようです。」

「ドイツ兵器は、優れた科学力を背景に開発された高性能兵器であり、その性能は連合軍の兵器と比較して圧倒的であったかのように誤解されているようです。
このマウスも大口径の主砲と重装甲、
常識外れの超重量が無敵兵器かのような妄想を抱かせていますが、実際には有効な戦力として期待の出来ない駄作兵器だったのです。

SF空想戦記小説を読んだ後には、実際の史実を解説したこの本を読んでみることをお薦めします。
内容は日本軍に関係することですが、ドイツ軍にも共通することが読み取れます。」



 「光人社 虚構戦記研究読本」

「それでは本題に入ろう。

ドイツ語ではMausは、英語と同じく『鼠』を意味する。
「マオス」と発音する
(らしい)が、ここでは一般的に『マウス』と呼ばれているので、この名称で説明する。
Mause(モイゼ)と紹介しているところもあるが、複数形の単語であり、意味は同じである。

大戦中期以降のドイツ戦車には、Tiger(虎)、Panther(豹)などの猛獣の名称が付けられているが、その名の通り、連合軍を相手に猛獣の如く暴れ回って恐れられた。
マウスには
可愛い小動物の名称が付けられているが、その名とは裏腹に絶大な戦闘能力を誇る最強兵器である。
戦車に興味がなければ分かりにくいので、どれだけ凄い兵器なのか大戦初期からドイツ軍戦車の歴史を簡単に説明しよう。」

「無意味に長くなるだけだと思いますが。」

「第二次世界大戦開戦時、つまり、1939年9月のポーランド侵攻作戦時にドイツ軍が生産していた戦車は
  T号戦車B型 機関銃搭載
  U号戦車E型 20mm機関砲搭載
  V号戦車E型 37mm砲搭載
  W号戦車C型 75mm砲搭載
だった。
この時代は、37mm砲は対戦車用、75mm砲は歩兵支援用だった。
つまり、対戦車戦闘用の戦車はV号戦車ということになる。」

「開戦時にはV号、W戦車の配備台数は非常に少なく、貧弱なU号戦車が主力でした。
ドイツ軍は、
大戦初期から戦車不足で苦悩していました。

フランス侵攻前からは、ドイツが併合したチェコ製の『38t戦車』が数多く配備され、ドイツ装甲師団の一翼を支えていたのです。
38t戦車の性能はV号戦車に匹敵し、自走砲や対空戦車などに改造されて終戦まで戦い抜いています。
決してドイツ戦車だけが性能面で優れているとは言えません。」

「1941年6月、ソビエト侵攻時には
  V号戦車J型 50mm砲搭載
に改良されていた。

ソビエト軍には、T26やBT戦車などが多数配備されており、これらの戦車には十分対抗できたが、T34、KV-I には不十分なため、V号戦車は長砲身の50mm砲、W号戦車は長砲身の75mm砲を搭載することになる。
改良の経過について、一部を表にして紹介しよう。

このデータは、
「W.A.A.C.」(はっしー@WAAC様)のHPから転載させて頂いたが、承諾を得ているので問題はない。
転載の条件として、URLを明記して紹介させて頂く。」

W.A.A.C.(WW2 AFV AVILITY CHART)
  http://www.k5.dion.ne.jp/~mhashi/database.htm

V号E型 V号H型 V号J型(※1) W号C型 W号F2型 W号H型
主砲 46口径37mm砲 42口径50mm砲 60口径50mm砲 24口径75mm砲 43口径75mm砲 48口径75mm砲
貫通力
(※2)
37mm 48mm 62mm 47mm 104mm 114mm
最大装甲 30mm 30+30mm (※3) 50mm 30mm 50mm 80mm
生産開始 1938.12 1940.10 1941.12 1938.9 1942.3 1943.4

※1 後期型のデータです。
※2 距離1000mで装甲傾斜角0度の場合。
※3 30mmの増加装甲が取り付けられていた。

「見ての通り、性能は大幅に改良されている。
W号戦車は別物の戦車のように性能が向上している。」

「改良型のV号戦車では、まだ不十分な性能です。
1942年には、ようやくソビエト軍戦車に性能面ではリードしたドイツ戦車ですが、前年にはモスクワ攻略に
失敗し、この年にはスターリングラード戦での大敗、アメリカ参戦などでドイツ軍の敗北は決定的になります。
もっとも、敗北は戦車の性能差の問題だったのではありません。

ところで、大戦初期の連合軍戦車の性能はどうだったのでしょうか?」

T34 1940型 T34 1941型 KV-1 1939型 KV-1 1940型 Mk.II歩兵戦車 B1bis
生産国 ソビエト ソビエト ソビエト ソビエト イギリス フランス
主砲 30.5口径76.2mm砲 41.5口径76.2mm砲 30.5口径76.2mm砲 39口径76.2mm砲 52口径40mm砲 32口径47mm砲
17口径75mm砲
貫通力
(※1)
57mm 59mm 57mm 59mm 38mm 43mm
最大装甲 45mm 45mm 90mm 90mm 75mm 60mm
生産開始 1940.6 1941.2 1939.12 1940.1 1938.6 1937.01

※1 距離1000mで装甲傾斜角0度の場合。
※2 B1bisの75mm砲は、徹甲弾は用意されていません。

「大戦初期の連合軍は、戦車戦術が劣っていた上に、フランス軍戦車は1人用砲塔、イギリス軍戦車は榴弾が発射できないなどの問題がありました。
しかし、一部には装甲や速度などがドイツ戦車よりも優れていたものがあり、ドイツ軍戦車を相手に苦戦を強いることになります。

一部の数字的なデータのみで性能を判断するのは問題がありますが、あえて説明することにします。
このデータは、独ソ戦開始前に生産された戦車のデータです。
T34の装甲が薄いように思えますが、傾斜しているので被弾経路に優れています。
こうして見ると、この時期のドイツ軍戦車の性能は劣っていると思いませんか?」

「大戦中期からは、ドイツ軍戦車は飛躍的な発展を遂げることになる。
パンター、ティーガーの登場である。」

W号H型 X号D型
パンター
Y号E型
ティーガーT
Y号B型
ティーガーU
主砲 48口径75mm砲 70口径75mm砲 56口径88mm砲 71口径88mm砲
貫通力
※1
85mm 102mm 93mm 154mm
最大装甲 80mm 100mm 100mm 180mm
生産開始 1943.4 1943.1 1942.7 1944.4

※1 徹甲弾(通常弾)を使用し、距離2000mで装甲傾斜角0度の場合。

「パンター戦車は、ドイツ軍の驚異となっていたT34を真似して開発したにしては、生産が開始されるまで随分と時間がかかっていますね。
初期型のパンターD型は、エンジントラブルなどの不具合が多く、稼働率は低かったのです。
火力や装甲が優れていても、
動かなければ全く役に立ちません。

ソビエト軍もティーガー戦車に対抗できる戦車を開発することになります。
1943年には、122mm砲や152mm砲を搭載した駆逐戦車が生産されます。」

「ティーガーUは、試作品も含めて僅か487台しか生産されませんでした。
月産40両あまりです。(資料によってデータが異なる。)
一部の部隊にしか配備されず、広大な戦場で遭遇することは稀でした。」

「今回はマウスが、如何に凄い戦車だったのか世に知らしめるのだ。
ティーガー戦車開発以前の
戦車開発創世記の時代の話は取り上げない。」

無意味な前置きが長くなったが、無敵の超重戦車マウスを紹介しよう。
まずはマウスの勇姿をご覧頂きたい。
ティーガーTと比較すればその巨大さは一目瞭然である。」



「まるでドイツが誇るティーガーTが軽戦車のようではないか。」

「ティーガーTの大きさを参考までに教えてやろう。
ティーガーT戦車は、自衛隊の90式戦車や各国の現用戦車と大きさはそれほど変わりはない。

ティーガーTは
  全長:8.5m、車体長:6.3m、全幅:3.7m、全高:2.9m、全備重量:57t
自衛隊の90式戦車は
  全長:9.8m、車体長:7.5m、全幅:3.3m、全高:2.4m、全備重量:50t

つまり、マウスの前では、M1、チャレンジャー、ルクレールなども軽戦車でしかない。」

「60年も前の駄作戦車が、最新鋭MBTと比較するとは、性能差は歴然としているのに愚かな例えでしかありません。
最新型の120mm滑空砲の貫通力は、推定で 1,000mm近いと思われます。
射程距離は 4,000m近くあり、電子制御の射撃統制装置を備え、いかなる状況下でも高い命中精度を誇ります。
複合装甲は、対戦車ミサイルの攻撃にも耐えるものです。
60t近い重量でも最高速度は約70km/hにもなります。」



「マウスが開発されるに至った経緯を説明しよう。
ドイツでは超重戦車の開発計画は、1941年から開始された。
1942年には、PorscheとKrupp社が開発を進めることになった。
要求された仕様は、重装甲と十分な搭載弾数だった。
Krupp社が車体と砲塔の開発、Daimler-Benz社がエンジン開発、Alkett社が組み立てなど、数社に開発が命令された。
そして、1943年には実物大模型が完成した。」

「搭載する砲は様々な計画があったが、主砲に37口径150mm砲、副砲に70口径105mm砲を搭載することも計画された。
また、計画段階では火炎放射器を増設することも要求された。
その後、128mm砲と75mm砲を搭載することに決定されたが、後に38口径150mm砲、170mm砲も搭載できるように設計された。
もし、この計画が実現されていれば、恐るべき超重戦車が完成していたことになる。」

「ますます現実離れしていきますね。」

「1943年8月からは、Alkett社で試作1号車の組立が開始された。
試作1号車の車体は、1943年12月に完成した。
この時には、砲塔は完成していなかったため、コンクリート製のダミー砲塔を搭載して、試験走行が行われた。
試験走行の結果は、良好な性能が得られた。
砲塔は1944年6月に完成した。
マウスにはディーゼルエンジンを搭載する予定だったが、開発に時間がかかるため、1号車は航空機のエンジンを改造したガソリンエンジンを搭載した。」

「試作2号車は1944年6月に完成した。
2号車はドイツ軍初の戦車用のディーゼルエンジンを搭載した。
(とも言われている。)

「結局は鈍重な戦車は役に立たないと判断されたことから、1943年11月には試作車両2台の生産を継続することのみ許可され、生産中止が命令されました。」

「大戦末期に生産が間に合った各国の戦車を比較すると、次の通りになる。」

マウス M26パーシング センチュリオン JS-3 五式戦車
生産国 ドイツ アメリカ イギリス ソビエト 日本
全長 10.09m 8.65m 7.65m 9.98m 7.30m
全幅 3.67m 3.51m 3.35m 3.20m 3.05m
全高 3.66m 2.78m 2.95m 2.71m 3.05m
重量 188.0t 41.9t 48.8t 45.8t 37.0t
最大速度 20km/h 40km/h 34km/h 37km/h 45km/h
最大出力 1,080hp 500hp 600hp 600hp 550hp
主砲 55口径128mm砲 50口径90mm砲 58.3口径76.2mm砲 43口径122mm砲 53口径75mm砲
貫通力
(※1)
221mm 110mm/169mm 109mm/186mm 140mm/200mm 62mm
副武装 36.5口径75mm砲×1
7.92mm機関銃×1
12.7mm機関銃×1
7.62mm機関銃×2
20mm機関砲×1
7.92mm機関銃×1
12.7mm機関銃×1
7.62mm機関銃×1
46口径37mm砲×1
7.7mm機関銃×2
乗員 6名 5名 4名 4名 5名
最大装甲 280mm 102mm 121mm 220mm 75mm
生産開始 1944.6 1945.1 1945.5 1945.3 1945.8(※2)

※1 距離2000mで装甲傾斜角0度の場合。前者は徹甲弾、後者は特殊弾の装甲貫通力。
※2 試作車両は主砲未搭載の状態で終戦を迎えました。1945年8月には完成を予定していました。

「この表を見れば、性能差は一目瞭然。

ブァカ者がァアアアア
ナ チ ス の 科 学 は 世 界 一 チ イ イ イ イ !!
連合軍最新戦車の性能を基準にイイイイイイイ…
このマウスの戦闘能力は作られておるのだアアアア!!」

「マウスと五式戦車は、試作のみが生産されました。
実戦には使用されていません。
他の戦車は量産されています。朝鮮戦争で使用されたり、東西冷戦下において生産が続けられたりしました。
五式戦車があまりに貧弱なので強調してしまいましたが、ここは日本軍の戦車を酷評するところではないので省略します。」

「マウスの主砲は128mm砲で、当時の戦車に搭載させた口径では最大だった。
貫通力も最強で、
あらゆる戦車を遠距離から撃破できた。
さらに大口径の150mm砲や170mm砲を搭載する計画もあった。

マウスは我がゲルマン民族の最高知能の結晶であり誇りであるゥゥゥ!!
つまりすべての地上兵器を超えたのだァアアアアアアアアアアアア!!」

「しかし、マウスは128mm砲を搭載していたとしても、それを有効に運用できるだけの性能が備わってませんでした。」

「砲の口径が大きくなれば、砲弾は大きくなり、重量も重くなります。
つまり、携行弾数は少なくなり、装填時間も長くなります。

大きな図体をしている割には、128mm砲の
搭載弾数は僅か32発
このうち半分に榴弾を搭載すれば、対戦車用の徹甲弾は僅か16発しか搭載しないことになります。
この時代の遠距離での命中精度を考えると、マウス1台が敵戦車を撃破できるのは、僅か数台になります。
仮に非装甲目標に副砲の75mm砲を使用し、128mm砲を対戦車専用にして徹甲弾のみを積載したとしても、32発しか搭載できないのです。
Y号駆逐戦車ヤークトティーガーは、マウスと同じ128mm砲を装備していましたが、砲弾は40発搭載できました。不思議です。」

(マウス搭載弾数は、55〜75発というデータもあります。)

「128mm砲弾の重量は約28kg。
これだけ重い砲弾を装填するとなると、装填手には大変な重労働です。
当然、装填時間もかかります。
走行中の揺れ、命中弾による衝撃、疲労などによって装填ミスの危険性も高まります。
ちなみに88mm砲弾の重量は約22kgでした。」

「マウスが1発を射撃する間に、敵の戦車は2〜3発撃ってきます。
これは、1対1の戦闘と仮定した場合です。
仮に戦力比が5倍の差があったとすれば、1発撃つ間に敵は15発も撃ってくるのです。
正面装甲は貫通できないにせよ、主砲、キャタピラ、砲塔基部、装甲接合部分などに命中する危険性は拭えません。」
(ソビエト軍戦車の命中精度が低いことは考慮していません。)

「マウスには副砲として、75mm砲が搭載されていた。
75mmは、当時の主力戦車と同クラスの口径だった。
搭載弾数は200発だった。
主力戦車の3倍近い砲弾を搭載していたことになる。
これにより、長時間補給無しで戦闘を継続することができる。」

「マウスに搭載された75mm砲の貫通力は、以外に低いものでした。
ドイツ軍の戦車砲で、口径が同じ75mm砲の貫通力を比較してみます。」

搭載戦車 搭載砲 100 300 500 1000 1200 1500 1800 2000 2200 2500
パンターG型 KWK42 70口径75mm砲 180 172 164 143 135 123 110 102 94 82
W号H型 KWK40 48口径75mm砲 140 134 128 114 109 99 91 85 79 -
マウス KWK44 36.5口径75mm砲 100 96 92 81 77 71 64 60 - -

※1 装甲傾斜角0度の場合。

「この75mm砲は、W号戦車の75mm砲よりも貫通力は劣ります。
これでは、至近距離でもJS-2はおろか、
大戦末期型のT34やM4も破壊できません。
なんのために搭載したのでしょうか?
こんな砲に200発も砲弾を積むのなら、もっと128mm砲弾を搭載するべきです。」

「75mm砲は、128mm砲と同軸で搭載されています。
砲手、装填手は両方の操作を兼ねています。
つまり、128mm砲と75mm砲は別々の目標に射撃することはできません。」

「そもそもこの戦車は、あらゆる敵戦車に対して絶対的優位を得るために開発されたのではないでしょうか。
それならば、もっと合理的な設計をするべきでした。」

「MG42機関銃1丁を装備していた。
20mm機関砲を主砲と同軸で搭載していたという資料もある。」

「機関銃は砲塔前面に装備したものでした。
機関銃を取り付けるには、装甲板に穴を開けることになるので、
防護力は低下します。
被弾率が高い砲塔正面の機関銃や銃口に砲弾が命中でもすれば、破壊または甚大な損害を受けることでしょう。
防御力を優先させるのであれば、こうした取り付けは適しません。

対歩兵用に機関銃は必要不可欠な武装です。
マウスに装備された75mm砲よりも、機関銃の方が肉薄する敵兵には有効だと思います。
防御力を低下させずに機関銃を装備するのであれば、車外に身を乗り出す危険性があるものの、W号突撃砲などの上部に装備された防盾付きのものか、ヘッツァー戦車の様にリモコン式が適していると思います。
ただし、リモコン式の場合は、弾薬が切れれば車外に身を乗り出して装弾する必要があり、潜望鏡を使用しての射撃になるので、命中精度などが劣ります。
ドイツ軍の試作戦車『E25』に計画されていた、機関銃用の小砲塔を搭載するのも有効な方法でしょうが、防御力の低下は否めません。」

「砲塔上面の後方には『Nahverteidigungswaffe』が装備されていた。
これは 『Sマイン発射機』などとも言われているが、分かり易く言えば『92mm擲弾発射機』である。
この兵器は、敵歩兵が肉薄戦闘を仕掛けて来た場合、車内から空中で破裂する対人地雷を発射してを殺傷する兵器である。
また、この発射口からは、車内から信号拳銃を使用して、擲弾を射撃することもできた。」

「この兵器の有効性は疑問がありますね。
戦車には歩兵の援護が不可欠で、戦闘時には随伴しているはずです。
それにも関わらず、この兵器を使用すれば、Sマインは空中破裂をして周囲に約350個の金属球をバラ撒くこといなるので、味方にも被害を及ぼします。
この兵器の発射角度は39度に固定されていたので、使用できる距離も限定されていました。
ティーガー戦車などの一部の戦車に装備はされていたものの、搭載弾数は少なかったようです。」

「火力だけではない。防御力も世界最強だった。
マウスの装甲は
正面240mm、側面、後面とも180mmの重装甲で防御されている。
マウスの正面装甲を貫通できる兵器は存在しない。
側面と後面の装甲厚は、ドイツ軍が量産した第二次世界大戦中に量産された
世界最強の重戦車ティーガーIIの正面装甲と同等である。

英米軍は、ティーガー戦車を破壊するために、数にモノを言わせて戦車を側面に回り込んで近距離から射撃して破壊した。
しかし、マウスにはこの作戦は無意味だ。
マウスは
完全無敵の最強戦車なのだ。」

「マウスは対戦車地雷に備えて底部前面の装甲は 100mmもあった。
対戦車地雷で破壊することは不可能だ。
航空攻撃に備えて
砲塔上面の装甲は 40mmあった。
機銃掃射は全く通用しない。」

「対戦車地雷を踏んだら破壊は免れても、キャタピラや転輪が破壊されて走行不能になると思います。
戦闘中に移動不能になれば、怒濤の如く押し寄せる赤軍歩兵の肉薄攻撃を受けて破壊されるのを待つだけです。」



「車体後面には燃料タンクが取り付けられていますね。
外部予備燃料タンクに100mmを越える装甲が施されているとは思えません。
試作1号車の燃料はガソリンでしょう。
予備燃料タンクには1,500Lも積載していました。
燃料タンクに被弾すれば、即昇天、
鋼鉄の巨大棺桶と化す危険性があります。

砲塔後部にあるのは銃眼ですが、先程にも説明したとおり、防御力を低下させることになります。」

「JS-2やJSU-122などに搭載された122mm砲は、成形炸薬弾を使用すれば、貫通力は200mmでした。
これでは、側面、後面から射撃を受ければ、
ひとたまりもありません。
成形炸薬弾は、距離によって貫通力が減少することはほとんどありません。
ソビエト戦車の主砲の命中率が低いにしても、
大きな図体とノロい足では絶好の標的でしかありません。」

マウスの重量は188トンもあった。
この超重量に機動力を与えるために、
エンジンパワーも世界最大だった。
1号車のエンジンは航空機用ガソリンエンジンを改造した、ダイムラー・ベンツMB509 水冷V型12気筒ガソリンエンジンで、1,080馬力あった。
このエンジンで発電器を動かし、2機の電気モーターで駆動したのだ。

2号機には、ドイツ初とも言える1,200馬力のダイムラー・ベンツMB 517空冷V型12気筒ディーゼルエンジンを搭載した。
このエンジンパワーは、最新鋭のMBTに匹敵する。
この強大なエンジンパワーにより、超重量を物ともしない驚くべき機動力を得ることができた。」

「マウスの超重量は、絶対破壊不可能な分厚い装甲板を装備するために超重量になったものだ。
ドイツ陸軍の最新型主力戦車レオパルド2A6でも約62t。
マウスを越える超重戦車は現在に至るまで生産されていない。」

「それは、役に立たないからです。
ドイツ装甲部隊の父と呼ばれたハインツ・グデーリアンは、戦車に必要とされるものは、『火力・機動力・防御力・無線機』と述べています。
これは、第二次世界大戦から現在まで変わりません。
多くの主力戦車は、多少は防護力を犠牲にしてでも、機動力を確保しています。
兵器である以上、多少の損害は止むを得ず、機動兵器としての運用性を優先させているのです。
重装甲で鈍重な戦車は、現在に至るまで高い評価は得られていません。」

「初期のドイツ軍は電撃作戦で、機動力を重要視していました。
有名なドイツ軍将軍を例に挙げれば、グデーリアン、ロンメル、マンシュタインは装甲部隊の機動力を駆使して、数で劣勢なドイツ軍を勝利に導きました。
指揮官の中には、ティーガーよりも速度で勝るパンターの方が好まれることがありました。
こんな鈍足では、刻々と状況が変化する戦場に対応することはできません。
敵がマウスとの直接戦闘を避け、迂回して戦線を突破したとすれば、対応することは出来ません。
包囲され破壊されるのを待つのみです。

マウスはドイツ戦車でありながら、
ドイツ軍の装甲戦術を無視した使えない兵器だったのです。」

「仮に戦闘で敵側が損害を出して撤退したとして、僅か10km/hの速度で追撃するなど笑わされます。
追撃戦には参加できずに、戦線後方に取り残されることになります。」

「装甲を厚くすると重量が増加します。
重量が増加すれば、強力なエンジンが必要となり、さらに重量が増加します。
各部の強度を確保するためも、重量が増加します。

車体幅に比べて車体全長が非常に長くなっていますが、車体前寄りの部分にエンジン、その後部に発電器、車体後部にモーター搭載しており、巨大な車体の大部分は駆動系のユニットで占められていました。
非常に無駄な巨体であることが分かります。」

「マウスの速度は 20km/hとのデータもありますが、本当にこれだけの速度が出せるものでしょうか?
路外走行では、10km/hのようです。
地形によっては更に速度は低下することでしょう。
降雪期、降雨時の泥濘などの気象条件によっては、走行できないことも考えられます。
この常識外の重量では、走行できる場所も限られてきます。
実際には、エンジンの故障などを防止するため、戦車が最大速度で移動することはありません。
188tの重量では、路外走行は事実上不可能とも思われます。
スタックしたら、誰が助けてくれるのでしょうか?」

「単純に燃費計算すると、2,700Lの燃料タンクで航続距離は186km。
1リッター当たりの走行距離は、約68m。
アイドリングを含め、戦闘速度で走行したり、路外走行すれば、更に短くなります。
実際には、30mくらいしか走れないのではないでしょうか?

ティーガーUでも、約200m以下でした。
大戦末期のドイツ軍に、マウスに補給を続けるだけのガソリンは準備できません。
ドイツ軍では、燃料の補給ができない戦車は、車体を壕に埋めて砲台として使用されたものもあり、前線で燃料補給が受けられない場合は、破壊して放棄されることもありました。
マウスも同じ運命を辿ったことでしょう。」

「燃料が無ければ砲塔を旋回させることもできません。
つまり、戦闘に使用できないのです。
W号戦車の最終生産型のJ型は、生産性向上のため、砲塔旋回用のモーターが搭載されていませんでした。
ドイツ軍お得意の大戦末期症による手抜きです。
つまり、
ハンドルを回して手動で砲塔を旋回させるのです。
これは乗員からは大変不評でした。

ティーガーTは、非常時に砲塔を手動旋回できましたが、マウスの砲塔は50t近くもあり、とても手動で旋回することはでません。」

「モーター駆動は様々な問題点がありました。
電気モータ駆動は、駄作駆逐戦車エレファントにも採用されたのですが、ノロくて使い物になりませんでした。
しかし、最大の欠点は信頼性でした。
エレファントは、坂道を走行すると故障することがありました。

もっともこんな
常識外の重量の戦車を動かそうとするのですから、通常の駆動方式では移動させることはできなかったのでしょう。」

「マウスは超重量級であるため、橋を渡ることはできない。
しかし、シュノーケルを備え、潜水走行することができた。」

「実際河川付近の地形を無視した安易な発想ですね。
河川付近は砂や泥が堆積した脆弱な地質もあります。
188tの重量では、河川内でスタックするかもしれません。
戦車が川の中に沈没すれば、サルベージすることはできないでしょう。
堤防を登り切るだけのエンジンパワーがありますか?」

「浅瀬は自力走行可能でも、深い河川では自力走行は出来ません。
対岸側に発電器を設置し、そこからケーブルで電気を供給し、潜水走行するのです。
シュノーケルを装着して自力走行ができると勘違いしてはいけません。」

「マウス試作2号車に搭載されたディーゼルエンジンは試験走行中に故障してしまいました。
ドイツでは、ディーゼルエンジンを搭載した戦車を開発したことが無く、開発は難航したようです。
当然、モーターを含めてエンジン全体の信頼性は低いと認められます。

仮にエンジンが故障して戦線後方の修理中隊に引き上げるとすれば、牽引のためにマウス2台が必要になるようです。
つまり、前線から2台のマウスを引き上げることになります。
18tハーフトラックが牽引するとすれば、20台あっても足りないはずです。
また、牽引速度は非常に遅くなります。
先にも述べたとおり、エレファントはエンジンに負荷がかかると故障することがあり、実際には牽引は不可能で、故障すれば放棄するしかないのです。」

「整備性も劣悪だったと思います。
足回りの整備には巨大なジャッキを必要としたようです。
転輪はティーガーやパンターと同様に千鳥歯式で、互い違いに組み込まれています。
常識外れの超重量を支えるために仕方が無かったと思いますが、整備には手間が掛かるため、現在の主力戦車でこの方式を取るものは存在しません。」

「ソビエト軍の襲撃機『Ilyushin Il-2(シュトルモビク)』は、性能は低いものの強力な防弾装備が施され、頑丈な胴体構造をしていました。
武装は、23mm機関砲2門、7.62機銃2丁、12.7mm機銃1丁、爆弾またはロケット弾を搭載し、37mm機関砲を装備するものもありました。
総生産機数は、36,163機と言われていますが、単一の機種としては史上最高の生産数です。
ドイツ軍からは
空飛ぶ戦車とか黒死病と呼ばれて恐れられていました。」

「マウスの上面装甲は、40mmでした。(60mmのデータもあります。)
ハッチの装甲は写真で確認するとそれ程厚いようには思えません。
マウスの馬鹿デカい図体なら目立つので、友軍への誤爆の危険性も減少すると思います。
シュトルモビクから攻撃されれば、マウスは
ペストで死んだネズミと揶揄されることになるでしょう。」

「ソビエト軍砲兵は、122mm砲、152mm砲、さらには203mm砲、スターリンのオルガンと恐れられたロケット砲など装備していました。
攻撃前の準備射撃は壮烈なものでした。
これらの重砲はマウスに直撃しなくても、援護する歩兵は全滅や攻撃前に逃亡してしまうでしょう。」



「歩兵の援護のない戦車は、敵歩兵の白兵戦によって簡単に破壊されます。
重装甲を備えた駆逐戦車エレファントも、ソビエト歩兵の爆雷攻撃で多数が破壊されました。
歩兵の足よりも遅くては、逃げ切ることは出来ません。

1944年のワルシャワ蜂起の市街戦では、W号戦車やパンター戦車が大量の火炎瓶を浴びて破壊されました。
誘爆する前に脱出した戦車兵は、狙撃兵から狙い打ちされました。
ユーゴスラビア内戦でも、火炎瓶で戦車が破壊されています。

マウスの砲塔前部には、エンジングリルがあります。
マウスはガソリンエンジンなので、火炎瓶が大量に命中すれば
良く燃えることでしょう。
火炎瓶の攻撃は、戦車砲で破壊できない戦車に対しては、有効な攻撃かもしれません。」

「ソビエト兵は、重戦車の装甲を貫通できない対戦車兵器ではキャタピラ、転輪、主砲、砲塔基部などを狙って、戦車を無力化する攻撃を仕掛けました。
ソビエト軍狙撃兵師団などでは、終戦まで対戦車ライフルが多数使用されており、ペリスコープやピストルポートなど脆弱な部分を狙って攻撃しました。」

「JS-152は、「ズヴェルボイ狩人」と呼ばれていました。
大口径の152mm砲は、ティーガー(虎)やパンター(豹)を破壊できたからです。

大口径の砲弾が命中した場合、ティーガーIIの装甲が貫通できなかったとしても、衝撃で乗員が戦闘不能に陥ったり、照準器が故障するなど、損害が避けられなかったそうです。」

「ソビエト軍は大戦末期にJS-3重戦車の生産を間に合わせました。
ベルリン攻撃に使用されたとも言われています。
2000万人以上もの国民を殺戮した
大量虐殺者ヨシフ・スターリンの名を冠した戦車は、正面装甲は砲塔230mm車体120mm被弾経路に優れたデザインでした。

マウスの128mm砲は、装甲傾斜角が30°の場合

距離 100m 500m 1000m 2000m
貫通力 217mm 203mm 189mm 166mm

これでは、命中弾があっても破壊できない可能性が生じます。
JS-3の車体上部の装甲は 120mmですが、傾斜角がきついので、命中弾を弾き易いと思われます。
JS-3に搭載された122mm砲は、成形炸薬弾を使用すれば
貫通力は 200mmです。
成形炸薬弾は、距離によって貫通力が低下することはありません。

そうすると、側面あるいは後面から攻撃できれば、JS-3にもマウスを破壊できる可能性があります。
仮にソビエト軍が
ネズミ駆除のために、十分な量の成形炸薬弾を準備し、JS-3がマウス戦闘して破壊したならば、JS-3はネズミ取りなどと呼ばれたでしょう。」

「こんな使えない戦車の開発に労力を費やすなら、新型パンター戦車の開発を優先するべきでした。

パンターG型
(最終生産型)
パンターF型
(試作)
画像は『アイコン&お絵描き工房』のHPから、無料素材をお借りしています。

マウスが188tで、パンターF型は45tなので、同じ資材量で4台生産できます。
生産性も向上されています。
マウスが開発中には150台生産する計画でしたが、パンターなら600台も生産できます。
パンターの75mm砲は、JS-2には威力不足でしたが、88mm砲を搭載する計画もありました。
仮に完成していたとすれば、ステレオ式測遠機を備え遠距離での命中精度は向上しています。
装甲は、正面120mm、側面60mm、上面40mmと強化され、砲塔は小型化しているので投影面積が減少し、生存性が向上しています。

これに、生産性の優れたヘッツァー、生産ラインが整っているW号戦車の車体を流用した自走砲や対空戦車、ソビエト軍重戦車に対抗するためにティーガーUの改良を進めるといった生産プランではどうでしょうか?
Eシリーズが生産されるまでは、ドイツの降伏は到底免れないでしょう。

もっとも、ドイツ軍の敗戦が決定付けられた大戦末期に、
どんな兵器を生産しようとも悪足掻きに過ぎません。
戦車の性能は、火力、装甲の他に機動力、信頼性、整備性、生産性などあらゆる面から判断して優れた戦車であると評価できるのです。」

だが我がドイツの兵器開発能力は世界一ィィィ!
できんことはないィィーーーーーーッ!!


ミリタリーマニアの一部には、マウスの大口径砲による圧倒的な火力、あらゆる攻撃を寄せ付けない重装甲、巨大な勇姿から絶対無敵の最強兵器と例えられて人気がある。
試作戦車であっても知名度は高く、模型雑誌に登場することもある。
Mk.VIII巡航戦車と言ってピンとくるか?TKSやStrv.m/42と言って分かるか?
マウスは
戦闘能力、知名度ともに高く、優れた戦車であることに間違いない。」

「最後にマウスを総括すると

・エンジンの信頼性が低く、驚くほど速度も遅い。柔軟な戦術に活用できない。
・重量が重く、使用できる場所が限られる。
・搭載弾数が少ない。
・大量生産できない。整備性も劣悪。
・多くの資材や生産時間をかけても、それに見合った戦力にはならない

つまり、
駄作戦車ということです。

戦場では
人命や兵器は消耗品なのです。
前線では1台でも多くの戦車が必要とされていましたが、ドイツ軍は、生産性や運用性などを無視し、性能で勝る兵器を開発して、圧倒的な物量を誇る連合軍に対して優位に立とうとした
妄想の産物と言えるでしょう。
無敵の兵器が存在したことはないのです。」

「だまれ! 優れた戦車兵は優れた兵器に勝るんだ。

ドイツ戦車兵魂を教育してやる。
(今度は小林源文?)

俺のケツな・・・

  あ ぼ ー ん。

管理人 今回紹介したMausは、大戦末期に試作された兵器のため、資料が少なく、誤りがあるかもしれませんがご容赦ください。
使用した模型は、1/72 ドラゴンアーマーシリーズです。